うつの認知『心理士が解説する認知・ものの捉え方とは』

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2023.04.07

うつの認知『心理士が解説する認知・ものの捉え方とは』

カウンセリングでも相談の多い『うつ』の認知とは

カウンセリングを訪れる患者様の中で多くの方がお悩みになっているのが「うつ・抑うつ」です。今回はこのうつに特徴的な認知(ものの捉え方)についてのお話をしています

うつとその治療の歴史

人類におけるうつの歴史は深く、その始まりはギリシアまで遡ることができます。医者であったヒポクラテスによれば、うつは黒胆汁という体液が多いことで引き起こされるものであると説明されていました。その後も中世から近代にかけて、うつはルター、ゲーテ、キルケゴールなど哲学や宗教学、文学、あるいはさまざまな芸術作品の中で表現されてきました。しかしその多くは苦しみと共に語られ、そこからの共通した回復の道は示されないままでした。

しかし現代になり、1956年のイミプラミンの偶然の発見を端緒として、うつの薬物t的治療の可能性が開かれることになりました。1980年代終わりには副作用が少ないSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)が開発され、より薬物治療の適用が広まっていきました。

またそうした薬物療法と並行して、科学的に根拠のある心理療法として認知行動療法(CBT)が開発され、トレーニング・プログラムと共に広がりを見せています。現在のうつ病の治療の第一選択は、SSRIあるいはSNRIといった抗うつ薬と認知行動療法であり、この両者の組み合わせが最も効果があるもとされています。

うつに関する『認知モデル』の傾向について

認知行動療法の基礎となる考えとしては、人は出来事から直接影響を受けて行動するのではなく、それをどのように捉えるかというものごとの「認知」を通じて、それを行うということです。同じことを経験したとしても、その認知が異なれば異なった反応が生まれます。

一つの事実に対して、捉え方は複数ある『認知』とは

例えば、デートで恋人があと一時間で帰宅しなくてはならないとなった時、「もう一時間しかない」と捉えるのであれば、悲しい気持ちや残念な気持ちが生じ、引き留めるような行動をとることになるかもしれません。一方で「まだ一時間ある」と捉えるのであれば、わくわくした気持ちが生じ、残りの時間を十分に楽しめるような行動を探すことになるかもしれません。認知行動療法では、さまざまな症状の背後にある認知(そして行動)に注目し、さまざまな手法を用いてその変化を促していきます。

認知行動療法が注目するポイントとは

認知行動療法ではそれぞれの疾患や不適応が生まれる状況の背後に、特有の認知のパターンがあると考えています。抑うつの状態にある時に特徴的な認知パターンは、「否定的認知の三要素」と呼ばれるものになります。これは、抑うつの状態においては「自分自身」「世の中」「将来」の三つに対する否定的で偏った見方が生じやすいということを示しています。

●【抑うつ状態では「自分自身」について】

「自分自身」については「自分はだめな人間だ、愛される価値なく、無能で、役に絶たない」といった認知傾向があります

●【抑うつ状態では「世の中」について】

「世の中」については「世間はひどい、何もよいことがない、生きるに値しない」といった認知傾向があります

●【抑うつ状態では「将来」について】

「将来」については「このまま自分も世の中も悪いことが続くに違いない」といった認知傾向があります

※個人差は様々ですが、これらの認知傾向が生じやすいとされています。

抑うつ状態のときの、物事の認知は本当に間違っているのか?

抑うつリアリズムについて

ところで、カウンセリングの中でこうした『抑うつ状態』に感じやすい考え方の話をすると「いえ、私は間違っていません」と言われることがあります。そうなんです、それが抑うつ状態の認知傾向ですよ・・・と言いたくなるのですが、実は「抑うつ状態こそものごとを正しく認知しているのだ」という考え方があります。これは「抑うつリアリズム理論」と呼ばれ、1979年に行われた以下の実験を端緒としました。

時おり光るライトとボタンの前に、被験者を座らせ自由にボタンを押させます。実はこのライトとボタンは全く関係ないのですが、うつ状態でない被験者はボタンがライトと関係があると考えやすかったのに対し、うつ状態の被験者は自分がボタンを押す行為とライトが点灯することには関係ないと、現実通りの考えをしやすかった、というものです。抑うつリアリズム論についてはまだ論争がありますが、しかし少なくとも部分的には抑うつ状態の人が正しく状況を認知しているということがあると考えられています

「認知修正ではなく、より柔軟な認知の獲得を目指して」マインドフルネスへ

うつ状態における認知がすべて間違っているという意味ではないことは先に紹介をしました。

実際のうつ状態の人のカウンセリングは、「誤った認知を修正する」ということよりも「より柔軟な認知を獲得する」ということを目的に行われる、ということができるでしょう。ものごとを一つの捉え方しかできないと、行動や思考の柔軟性が失われ、苦しい感情に囚われてしまいます。

そのために必要となるのは、自分の現在の状態を気づいていく、という力であるということができます。認知行動療法の中でも、この気づいていくという過程の重要性に注目したものを「第三世代の認知行動療法」と呼び、マインドフルネスと呼ばれる概念を中心に展開されています。このマインドフルネスはルーツの一つに日本の禅仏教が挙げられることもあり、日本人に合ったセラピーの一つとして注目が高まっています。これは言うならば、西洋的な「うつ」の概念に対し、東洋的なアイデアによって挑戦が試みられている、ということができるかもしれません。

さいごに

今回は、うつ状態・うつの時の認知面について紹介をしました。

うつ状態やうつの認知面の傾向を紹介しつつ、認知面に対する考え方やアプローチの変遷について紹介をいたしました。

皆様の理解に少しでも役立つ記事になればと願っています。

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監修者

カウンセリングルームここまり医師

カウンセリングルームここまりの精神科医師と公認心理師・臨床心理士による記事記載と投稿。

医師としてのメンタル診療やメンタルヘルスに関する視点だけではなく、様々な人たちの日々の悩みなどにも注目して記事の記載や監修を行っています。カウンセリングルームここまりは臨床心理士と公認心理師の所属する名古屋市の金山と名古屋駅のカウンセリングルームです。

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