怒りと攻撃行動『ネットなどの社会背景が与える行動の変化とは』

家庭 恋愛 子育て 仕事 友人関係 学校 心理

2023.04.01

怒りと攻撃行動『ネットなどの社会背景が与える行動の変化とは』

『怒り』とは何だろう

人はさまざまな感情をもつ生き物です。「嬉しい」「楽しい」「好き」「幸せ」といったポジティブなものから「辛い」「悲しい」「嫌い」「虚しい」といったネガティブなものまであります。「怒り」もその一つです。我々は日常生活の中のあらゆる場面において幅広い感情を体験しながら生きています。これほどまでに豊かで繊細な感情をもち、表現される生き物も他に類を見ないのではないかと思うほどです。

では、そもそも「怒り」とは何なのでしょうか?

さまざまな定義はありますが、アリストテレス(1966)は怒りを「自分自身、または自分に属するものに対するあからさまな軽蔑,しかも不当な軽蔑によって起こされる復讐への欲求,苦痛を伴った欲求」と動機付けを持つ社会的な感情として定義しました。

自分が受けたネガティブな対応や、ネガティブな感情に対する現れ

つまりは自分や自分の所属する社会や団体、コミュニティなどが馬鹿にされたりののしられたりしたときに感じる「やり返したい」という気持ち、自分が傷ついたのと同等に相手を傷つけたいという気持ち、と理解できます。

そして、この「怒り」の感情から湧き出る「復讐への欲求」「やり返したいと思う気持ち」が怒りを含んだ攻撃行動に繫がるのです。

心理学でいう『攻撃行動』はちょっと違う

心理学では攻撃行動を「人を傷つける意図をもった行動」と定義しています。攻撃行動ということばからは「殴る」「蹴る」などの暴力的な行為が連想されやすいため、あまり身近な感じはしないかもしれません。ここ1か月の間に「人に対して殴る・蹴るなどの行為をしたことがある人」と尋ねても「はい」と答える人は少ないでしょう。しかし、心理学でいう攻撃行動は身体的な暴力行為だけではなく、愚痴、文句、悪口などの相手を攻撃する意図をもった言動全てを含みます。学校や職場の先生や先輩に対して「ムカつく」「気に入らない」などと言うなど批判することもれっきとした攻撃行動と言えます。

時代とともに攻撃行動が複雑化している

特に現代では直接的な身体的攻撃行動に加え、学校内や職場でのいじめ、家庭内での虐待やDVなどが社会問題になることもあります。また、さらには情報化社会の中でインターネットやSNSによる誹謗中傷など誰でも簡単に匿名で攻撃行動を起こすことができるようになっています。

間接的行動と直接的行動の違いについて

攻撃行動は直接、当の相手に向けられる「直接的行動」と自分ではやらずに誰かを使って攻撃させる「間接的行動」に分かれます。直接的行動は暴力など明らかに誰もが「問題だ」と認識しやすく犯罪と認定されることもあります。しかし、間接的行動は人の目につきづらく、匿名性も高くなるため表面化せずに誰かが誰かを攻撃している、ということが起こり得るのです。

『怒り』が『攻撃行動』に繫がるとき

では、人はなぜ他人を傷つける行動をとるのか・・・・・その理由として心理学ではいくつかの理論が提唱されています。

攻撃本能説

人を攻撃するのは人間が生まれつきもっている「攻撃本能」のためであるという説。

比較行動学者ロレンツや精神分析学フロイトらがこの立場。

フラストレーション攻撃説

自分の思い通りにいかずイライラしているとき、些細なことでついカッとなって怒りを感じ攻撃的になるという説。また、人から非難されたり侮辱されたりしてプライドが傷つくと腹が立ち「殴り返したい」「やっつけてやりたい」など報復したい気持ちが出てくることも含まれる。心理学者のダラードが提唱。

攻撃手掛かり説

攻撃行動の生起には銃やナイフなどの手がかりの存在が鍵になる、という説。バーコウィッツとジーンの研究の実験では凶器が目の前に存在し、自由に使えることが人の攻撃欲求を誘発し高めることが明らかにされている。

攻撃学習説

発達過程で攻撃行動は学習されている、という考え。攻撃行動によって欲しいものを手に入れられたり攻撃行動を「男らしい」などと褒められたりすることによって、攻撃傾向を強めると考えられている。

攻撃の社会的構築理論

怒りやそれに伴う攻撃行動は、不当に感じたときの適切な対人対処法とする理論。怒りとそれに伴う攻撃行動は「自らをコントロールできないくらいの不本意な事態」であることを相手に知らせ、相手に自分の意図を理解させ、事態を有利に動かそうとする対人スキルであると考える。

社会情勢の背景にある、『怒り』と『攻撃行動』

昨今、新型コロナウイルス (COVID-19)の世界的な流行拡大により、世界中に不安が広がっていました。これまでの臨床経験から不安が怒りを生み、攻撃的な行動や態度に繫がっているという例は多々あるように思います。未曾有の事態に世界が対応に追われ振り回されている状況です。そして最初は自分には関係ないことと思っていた人たちも、なかなか収束しない事態と日に日に身近に忍び寄る新型コロナウイルスは恐怖を感じざるを得ない状況になっています。

社会情勢に影響を受ける『怒り』と『攻撃行動』

新型コロナウイルスは誰しもが感染する可能性があるほどに世界中に広まり猛威を振るいました。そして、まだまだ明らかになっていないことも多く治療方法や予防方法も確立していないことなどから我々を不安にさせる要素を多く含んでいます。

そして、今までそれほど意識しなくても感じられていた「安心感」を脅かし、安全だった我々のテリトリーに侵入してきています。アリストテレスは「自分自身、または自分に属するものに対するあからさまな軽蔑」に怒りを感じると定義していますが、それだけではなく我々は安心・安全を脅かされる不安や恐怖からその原因に対して怒りを覚え、その不安を解消するために他者を攻撃する行動に走る可能性があります。それが新型コロナウイルス感染者への偏見、差別、そして誹謗中傷などに転じていると言えるのではないでしょうか。

時に関連が波及することもある

以前に「コロナ」という名前の少年がいじめを受けたという出来事が世界的なニュースになったこともありました。これはバーコウィッツとジーンの研究で「攻撃と結びつくような手がかりが存在したときに攻撃行動が誘発されやすい」ということが証明されおてり、「コロナ」という名前が新型コロナウイルスを連想させ攻撃の対象となってしまった、というものです。「コロナ」少年は新型コロナウイルスとは全く関係ないにも関わらずいじめという攻撃行動の対象となってしまいました。こうして非がないだけではなく、全く無関係の人に対しても人々の攻撃行動が向かうことがあるのです。

誹謗中傷やネットも影響

自分が社会に対して不満があったり、プライベートで嫌なことがある時、自分とはおおむね関係ない話題や問題に対して必要以上に非難して、誹謗中傷やネットでの攻撃を行ってしまうことも最近は増えてきているようです。

つまり自分の正義感をもとに、時には踏み込んだ非難をしてしまったり、他の人たちが非難しているところへついつい加勢しにいってしまうなど、ネット上での『攻撃行動』の変化が取りあげられているのです。自らが抱える『怒り』の理由が別にあるにも関わらず、『攻撃行動』がネットの影響もあり大変複雑化してきているように思われます。

さいごに

怒りを感じる場面がさまざまであることと同様に、怒りから攻撃行動が出る背景もさまざまですが、常に自分自身の心の中や身の回りに攻撃行動を起こさせる要因は潜んでいます。攻撃行動は、誰しもが日常生活の中で取り得る行動の一つであり、我々は自身の行動が意識的にも無意識的にも相手を傷つける行動になっている可能性があるということを忘れてはならないと思います。

しかし、現代のネット社会では「ついつい」同調した非難や、「ときに」踏み込みすぎた非難がしやすい環境でもあり、自らの抱える『怒り』と『攻撃行動』に対する在り方が問われつつあります。そして、善悪混在した情報があふれるネット社会ではそれはかえって窮屈さをも感じさせるきっかけなのかもしれません。

参考文献

『人間関係の心理学 第2版』 斎藤勇 著

カテゴリ:

家庭 恋愛 子育て 仕事 友人関係 学校 心理

監修者

カウンセリングルームここまり医師

カウンセリングルームここまりの精神科医師と公認心理師・臨床心理士による記事記載と投稿。

医師としてのメンタル診療やメンタルヘルスに関する視点だけではなく、様々な人たちの日々の悩みなどにも注目して記事の記載や監修を行っています。カウンセリングルームここまりは臨床心理士と公認心理師の所属する名古屋市の金山と名古屋駅のカウンセリングルームです。

※只今、オンラインカウンセリングの新規受け入れを休止いたしております。相談歴がある方は担当カウンセラー宛に当ルームへご連絡ください。

このサイトは医療機関である心療内科・精神科のひだまりこころクリニックによる指導・監修がなされています。