過敏性腸症候群のカウンセリング事例『カウンセラーとの対話とは』

仕事 学校 心理 医学

2023.04.05

過敏性腸症候群のカウンセリング事例『カウンセラーとの対話とは』

ストレスと胃腸症状について

過敏性腸症候群とは

胃腸は心理的なストレスの影響を受けやすい器官であるといわれています。重要な試験などを控えているとき、緊張からお腹の調子が悪くなるといった経験は皆さんにもあるのではないでしょうか?

こうした症状の多くは一時的なものですが、中には身体的には明確な問題が無いにもかかわらず、強い腹痛や便秘、下痢などの症状を繰り返すことが長期間に亘って続き、トイレも近くなって仕事や日常生活に支障をきたすというものもあります。こうした場合、背景に過敏性腸症候群が影響している可能性があります。

医学的な治療と共に、カウンセリングが併用されることも多い

過敏性腸症候群の背景には緊張や不安など心理的要因が深く関わっており、医療機関では医学的治療に加えてカウンセリングが併用されることが多くあります。カウンセリングにおいては、相談に来られた方(以下、来談者)のお話しをまずは共感的に傾聴していきます。 

過敏性腸症候群に関するカウンセリングで特に思うこととは

いくつかのカウンセリング場面で思うことが、来談者の多くが自身の状態や気持ちが充分に理解されない経験をしているということです。こうした経験があると、来談者は対人関係から生じる緊張や不安を強めてしまいます。そして、この緊張や不安からのお腹の調子がさらに悪くなったり、誰にも相談せず問題を一人で抱え込むようになるおそれも考えられます。

カウンセリングをエピソード例で紹介します

Aさんもこうした過敏性腸症候群でカウンセリング経験をされた方の一人です。Aさんはとある企業に勤めています。生真面目で内向的なAさんにとって仕事は大変な緊張と責任を感じるもので、いつも「間違ったことをしていないか「周りに迷惑をかけていないか」と心配していました。また、Aさんは自分自身について「自信がもてない」とも話していました。

緊張やストレスが大きく感じられるとき

ある日、Aさんは重要な会議の資料作成を任されました。重要な会議であることと時間の余裕が無いことでAさんは強い不安と動揺を経験していました。上司や同僚に相談しようとも考えましたが、「みんなも忙しくしているから相談するのは迷惑になる」と一人で仕事を抱え込んでしまいました。

そのような中でAさんは仕事中にお腹の不調を経験するようになりました。何度もトイレに立たねばならず、集中して仕事を行うことが難しくなってきました。仕事の遅れも出始め、同僚にこのことを話しても『大げさ』と軽く扱われてしまいました。また、悪いことに、頻繁にトイレに行くAさんを同僚は『サボっている』と捉えてしまい、職場の対人関係も悪くなってAさんは孤立のような形になってしまいました。同僚に自身の症状を大げさと言われたこともあって、Aさんは上司にもお腹の不調のことを正直に話すことができませんでした。

過敏性腸症候群の診断

こうした状況にありながらもAさんは何とか会議を乗り越え、その後の仕事も必死でこなしていました。しかし、仕事を指示される度にこうしたお腹の不調は続いたため、病院で検査を受けることになりました。Aさんはそこで初めて過敏性腸症候群のことを知ったのです。そして、心療内科を紹介され、同時期よりカウンセリング来談となったのです。

カウンセリングに来談された時

カウンセリングでAさんはこうしたこれまでの辛い経験を涙ながらに語りました。抱え込んでいた苦悩を話すことで、Aさんの気持ちの辛さは少しずつ和らいでいきました。しかし、職場でのお腹の不調は続いています。Aさんはカウンセラーとの話の中で、今後の仕事をどうするか考えるために、まず上司に自身の本当の状態や気持ちを伝えることが状況改善のために必要と考えました。

人間関係に敏感になっている時こそ、カウンセラーと確認できること

ただ、「上司からどう思われるか不安」「迷惑にならないだろうか」となかなか行動に移すことができませんでした。カウンセラーはAさんの気持ちと行動のペースを尊重しながら、少しでもAさんが上司に思いを伝えやすくなるために、カウンセリングの中で適切なコミュニケーション法を検討したり、一緒にロールプレイを行うなどしてAさんを勇気づけるようにしました。

カウンセリングで目指すこととは

少しづつで良いから、カウンセラーと取り組める安心感

結果的にAさんは、上司に自分の本当の状態を伝えることができました。『大げさ』『甘えている』など言われるのではないかと思っていたAさんですが、上司はAさんの話を真剣に聞いてくれました。そして、『上司なのにこれまで気づかなかった申し訳なかった』『自分も診察に同席して適切な対応を相談させて欲しい』とAさんに伝えました。上司のサポートもあり、Aさんは職場の理解を得られ、同僚との関係も改善できたことで過剰な緊張や不安なく仕事ができるようになりました。

成功体験を一つづつ積み重ねていける事は

Aさんはこうした経験を通じて、「上司のおかげでこんな自分でも大丈夫なのだと自信が持てた」「勇気を出して自分から気持ちを伝えることが大事だと過敏性腸症候群は教えてくれた」と症状を肯定的に捉えるまでになりました。その後、Aさんの症状は改善し日常生活に支障をきたすことはなくなりました。

さいごに

身体に影響を与える心の状態は対人関係に左右されます。カウンセリングでは他者と安心して関わる方法も来談者と一緒に検討していきます。

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監修者

カウンセリングルームここまり医師

カウンセリングルームここまりの精神科医師と公認心理師・臨床心理士による記事記載と投稿。

医師としてのメンタル診療やメンタルヘルスに関する視点だけではなく、様々な人たちの日々の悩みなどにも注目して記事の記載や監修を行っています。カウンセリングルームここまりは臨床心理士と公認心理師の所属する名古屋市の金山と名古屋駅のカウンセリングルームです。

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