仕事 友人関係 学校
2023.04.05
職場における対人関係の悩み『カウンセリングでの取り組み例を紹介』
『職場における対人関係』はメンタルに大きく関わる
働く人たちにとって、職場での良好な対人関係はメンタルヘルス(こころの健康状態)の向上に欠かせないものです。困ったときに上司や同僚などに相談できれば、メンタル不調を予防し早期改善することも可能となります。反対に職場の対人関係で思い悩むことが増えているならば早めの対策が重要となります。実際、働く中でうつ病などを経験した人の多くが、職場の対人関係で心配や悩み事を抱えていたという報告もあります。
カウンセリングの場でも相談はとても多い
カウンセリングにはこうした職場の人間関係について相談に来られる方が多くおられます。
「自分が周りからどのように思われているか気になって自然な会話ができない」
「仕事を頼まれると自分が手一杯の時でも断れずに引き受けてしまう」
「上司や同僚からパワハラやセクハラを受けていて誰にも相談できない」
など内容は多岐に亘りますが、今回は「仕事に対する考え方を巡って職場の対人関係が不和となり、このことをきっかけにメンタル不調を呈したAさんの例」というテーマで、カウンセリングをよりイメージしていただきやすいよう記載をさせていただきました。
熱心に働いてきても、人間関係で悩んでしまうことに
Aさんはある企業の男性社員で主任という立場で仕事をしていました。元々真面目な性格で仕事熱心だったAさんは、入社当時から仕事に対する周囲の評価も高く様々な仕事に関わっていました。そして、同期の中で最初に主任に抜擢され後輩の指導にも携わるようになりました。しかし、主任になったAさんは自分が思うとおりに後輩が仕事をしないと厳しく叱り、仕事の進捗が遅れたときには強い苛立ちを経験することが多くなりました。また、新しく異動してきた上司の仕事のやり方を批判することもありました。
一生懸命働くAさんと、その実績について
Aさんとしては、「部署の業務成績を上げるためには苦しくてもやるべきことをやらねばならない」「組織や仕事を進める上で必要なことを周囲の人間は怠っている」と考えて必要なことを言っていたということです。実際、Aさん自身、部署の誰よりも熱心に働き、組織のことを第一に考えて行動していると上司の一部から多大な評価を得ていました。
一方で、人間関係で孤立する傾向に
しかし、次第にAさんの発言は相手の事情を考慮しないものとなり、周囲の人たちはAさんを避けるようになり、Aさんはほとんど孤立した状態になってしまいました。周囲との自然なコミュニケーションが難しくなったことで、Aさんの仕事にも支障が出始めました。
仕事が上手くいかないことにAさんが強い苛立ちを感じていたある日、Aさんの部署で大きなミスが起きてしまいました。Aさんはこのミスに関係した後輩に激怒して他の同僚の面前で怒鳴りつけてしまいました。このことがきっかけで後輩がメンタル不調を呈して退職する事態となり、Aさんは上司から厳重注意を受け、同僚等からも非難の声が上がりました。
人間関係から仕事の歯車が合わなくなる時も
このことでAさんは「自分のせいで後輩を退職に追いやってしまった」と激しく後悔して自分を責めました。罪悪感が薄れず不眠や頭痛など身体症状も治まらないことでAさん自身も出社することが難しくなったため、医療機関を訪れ、同時期よりカウンセリングに来談することとなりました。
カウンセリングでの取り組みについて
相談者のこれまでの苦労と、頑張りについて
カウンセリングでAさんは「自分自身、昔から“理念”とか“ルール”とか“こうあるべき”みたいな理想は絶対に守るべきだと思って行動してきた」「他者も同じように行動すべきで、それをしない人たちにはいつもイライラしていた」と話しました。
また、「仕事に真剣に取り組むことで周りから評価されていたから、『仕事は組織のために一生懸命頑張るべき』という自分の考えは正しいと思っていたが、自分自身、仕事が辛くて逃げ出したくなることが何度もあった」「周りに相談できなかった」「上司や同僚が自分から離れていくのが一番辛かったが、それでも仕事はしなければいけないと思ってやってきた」とAさん自身が大変な苦悩の中で仕事をしてきたことを語りました。
相談者との対話から、悩みや想いを一緒に考える
カウンセラーはAさんの話を共感的に聞きながら、Aさんには【~であるべき】【~しなければならない】と思考する傾向が強く、このことが考え方や行動の柔軟性を失わせ、Aさんの職場での対人関係やAさんの体調に悪影響を及ぼしていると考えました。このことはAさん自身が非常に辛い状態になるにもかかわらず、「退職した後輩や迷惑をかけた上司、同僚にまずはきちんと謝罪しなければいけない」「謝罪しなければいけないのに身体が思うとおりに動かない」と葛藤していることにも現われていました。
対話から見えてくる、相談者みずからによる『理解』を目指す
カウンセリングが進む中で、カウンセラーはAさんに【問題が解決して仕事に戻ったら何をしたいか】と尋ねました。
「上司や同僚たちと楽しみながら仕事がしたい」
「自分と意見やペースが違ってもそれを許して、相手の考えも受け入れてみんなで仕事がしたい」
とAさんは答えました。
相談者の考えや行動への変化とは
カウンセラーはAさんが自分と違う他者の意見やペースを受け止められるようになるには、まずはAさん自身がしっかりと休息を取ることをAさん自身が自分に対して認め、その上で状況に合わせた柔軟な思考や行動を取れることが重要と考えました。
タイミングを見て、カウンセラーが問いかけることもある
そこで、カウンセラーは【Aさんが『自分自身が今はしっかり休むことを許せるようになること』は、仕事で他の人の考えやペースを許すことにどう役立つか】と尋ねました。
この質問をAさんとカウンセラーが検討したことがきっかけで、Aさんは集中的に休養を取って治療に専念することを自分自身に許すことができ、Aさんの状態は少しずつ改善していきました。そして、Aさんは後輩や職場の上司たちに今までの言動について謝罪することができ、これを受け入れてもらえました。
このことでAさんのメンタルヘルスは大きく改善し、通常通りに仕事ができるまでに回復したAさんは、上司たちから『またこれからみんなで一緒に楽しみながら良い会社を作っていこうな』と励まされたことで、さらに心身の状態が安定し仕事への意欲も純粋に高くなったといいます。
「仕事をする上で守るべき大事なことはもちろんあるが、それと同じくらいみんなと一緒に仕事ができることも大切だとわかった」「お互いに支え支えられて仕事をしているのだから、それぞれの意見やペースを受け入れて柔軟に対応していこうと思えるようになった」と以前の自分からの変化を話してくれました。
さいごに
ワークエンゲイジメントとは
近年、健康でイキイキと仕事ができる状態である「ワークエンゲイジメント」という考えに基づいたメンタルヘルス対策が広がっています。紹介したAさんのエピソード例を見ると、このワークエンゲイジメントという観点からも職場での対人関係の重要性がうかがわれます。今回は、あくまでも分かりやすく例としてエピソードを構築して紹介しております。あなたの職場での対人関係の悩みがカウンセリングで少しでも良い方向に向かうきっかけになればと願っています。
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監修者
カウンセリングルームここまり医師
医師としてのメンタル診療やメンタルヘルスに関する視点だけではなく、様々な人たちの日々の悩みなどにも注目して記事の記載や監修を行っています。カウンセリングルームここまりは臨床心理士と公認心理師の所属する名古屋市の金山と名古屋駅のカウンセリングルームです。
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