見てはいけないもの『なぜかリスクを冒しても見たくなる』心理面とは

恋愛 友人関係 心理

2023.04.01

見てはいけないもの『なぜかリスクを冒しても見たくなる』心理面とは

小学生の頃「先生の机は勝手に開けてはいけません」

幼い頃は自分のものと他者のものの区別が弱く悪気なく相手が人に見られたくないと思っているものを見てしまう、見ようとしてしまうことは往々にしてあることです。しかし、さまざまな経験を重ねながら他人のものは勝手に見てはいけない、世の中には見ていいものとそうではないものがある、ということを学んでいきます。

「見てはいけない」と言われたものほど、見たくなってしまう大人の心理とは

では、そのような分別がつくようになってから「見てはいけない」と言われたものほど気になって見たい気持ちが強くなった、という経験はありませんか?また、見てはいけないとわかってはいるもののつい見てしまった、という経験がある方いらっしゃいませんか?

我々が生活する社会において明らかに「見ていいもの」と「見てはいけないもの」と区別されているものと、明らかな区別はないけれども暗黙のルールとして「見ない方が良い」とされていて多くの人がそのルールを守っている、というものがあります。しかし、「見てはいけない」「見ない方が良い」とされているものが時に人の興味を引き付け、そのルールを破ってしまうこともあるのも事実でしょう。

「見てはいけない」あるいは「見ない方が良い」とされているもの

例えば他人の携帯電話(スマートフォン)、財布、日記、手帳、机の引き出し、パソコン、手紙などは暗黙のルールとして「見てはいけない」「見ない方が良い」とされていますし、トイレやお風呂、更衣室などは「見た」ことが罪に問われることもあります。

見てはいけないものに共通すること

「見ない方がいいもの」「見てはいけないもの」に共通するのはまずはプライバシーです。人間には誰しもプライバシーがあり、それを侵害されることは非常に不快に感じます。相手のプライバシーを守る、相手を不快にさせないという相手を思いやる気持ちをもって接すること、延いてはお互いに心地良く過ごすことができる関係性・環境を構築するためにプライバシーを守りあうということはとても重要な要素です。

そして、その中に見るものと見ないものの区別をつけるということも必要なことなのです。

見てはいけないと言われるものほど見たくなるのはなぜか

では、「見てはいけない」「見ない方が良い」と言われるほど見たくなるというのはなぜなのでしょうか?

人は見ることだけではなく、「行ってはいけない」「やってはいけない」など禁止をされればされるほど、その禁止された事項を行いたくなる、という心理が働きます。行動に移すというところまでいかなくても、禁止された事項への関心が高まるということも多々あるでしょう。

なぜ人は禁止されたものほどそのことへの関心が高まるのでしょうか?

これは『リアクタンス』という心理学の概念で説明することができます。リアクタンス(心理的リアクタンスとも言います)とは心理学辞典(有斐閣)では「“態度”や“行動”の自由が脅かされたときに喚起される“自由の回復を目指す動機付け”状態。“説教”への抵抗をもたらす要因の一つ。押しつけがましい説得は、反発を招く。リアクタンスが喚起されると自由回復行動が志向され、禁止された行動が遂行される(脅かされた自由の行使)」と説明されています。つまり人間は自分の意思や気持ちで態度や行動を決められないことに強いストレスを感じ、「自由」を手に入れたくなる生き物なのです。そしてそのために禁止されている事項についてもその禁止を破りたくなってしまうのです。

『リアクタンス』の一例とは『コロナ時の外出自粛』

話は少し逸れますが、昨今の新型コロナウイルスの感染拡大のため社会は“自粛ムード”です。多くの人が不要不急の外出を控え自粛生活にストレスを感じています。その原因の一つとしてこのリアクタンスが関係していると言えます。自分の意思ではなく外出の自由を奪われるためその自由を取り戻したくなってしまう気持ちが芽生えます。自粛ムードではないときはそれほど外出したいという気持ちがないインドア派の人も、自粛ムードになった途端に出かけられないことに対してストレスを感じ不平不満が出るようになる、というのはこのためです。

カウンセリングでの経験

精神科・心療内科などの医療機関において時に窃視症や盗撮歴のある方が受診されることはありますが、こういったことは警察沙汰になってから問題が露呈することや周囲に勧められて来談するケースも多いため、実際のカウンセリングの場でも出会う頻度は圧倒的に少ないです。

それより断然多いのが「夫や彼氏のスマホ(携帯)を見てしまった」というものです。一昔前は財布やコート・ジャケットのポケットから良からぬものを見つけてしまって夫婦関係や恋人関係が悪化、破綻するということはあったかもしれませんが、現在では断トツでスマホ(携帯)がきっかけになることが多いです。

カウンセリングの場で打ち明けられることも多い内容

もしかすると男性も妻や彼女のスマホ(携帯)見ていることはあるのかもしれませんが、なぜかカウンセリングの場では女性からそういった行為について打ち明けられることが多いです。また、配偶者や交際相手に限らず、友達の裏アカを見てしまった、友達が自分の悪口を言っているところを目撃してしまった、など友人関係においても、相手がオープンにしていない情報や姿を目にし、それ以上は見ない方が自分にとっても良いと思いつつもついつい見続けてしまう、というパターンも多いようです。

不安に耐え兼ね、「見てしまうこと」で安心する

カウンセリングで話されるエピソードの背景にある心理としては、先程のリアクタンスに加えて大きな「不安」と「不安に耐える力の弱さ」が共通して存在しているように思います。「夫は不倫しているかもしれない」「彼氏は浮気をしているかもしれない」「あの子は私の悪口を言っているかもしれない」など「○○かもしれない」と思っている程度や実際疑わしい言動の有無などの現実味の個人差はあれど、自分の中の不安が膨らみ抱えきれなくなって「見てはいけない」「見ない方がいい」ものを見るという行為を選択するようになるのです。

また「不安➡確認➡事実を知ってショックを受ける」パターンと「不安➡確認➡(予想していたような悪いことを裏付ける情報はなく)安心する」パターンと両方あるようですが、カウンセリングに来られる方はもともと不安に耐える力が弱いことが多いため、後者の場合、また別のきっかけで不安になり確認したくなり「見てはいけない」「見ない方がいい」ものを見ることを繰り返し根本的な解決には至らないということもあります。

カウンセリングで目指すところ

カウンセリングで配偶者の不貞行為や恋人・友人の裏切りなどをコントロールできれば良いのですが、実際それは非常に難しく不可能に近いと言っても良いでしょう。カウンセリングでできることとすれば、「○○かもしれない」という見たくなってしまうような不安をどれだけ軽減したりコントロールしたりすることができるようになるか、また、その不安にどうやって対処していくことができるかということを検討することです。そして相手の知らない部分もそっとしておける心の余裕をもつことも重大な目標として設定することがあります。

そもそも、重大な事項が隠れていそうな場合には、スマホを見る以外の方法や冷静さが大事

不倫など今後の家族関係や人間関係における信頼に関わるような重大事項が隠れていそうな場合はスマホを見るというような強硬な手段以外に確かめる方法がないか検討することがあります。また、そもそも事実を知りたいのか、知ったうえでどうしたいのか、知らないまま過ごせるならその方が良いのか、など本人がその先どういったことを望んでいるか詳細に確認しながら話を進めていきます。

まとめ

古くから人類にとって「見てはいけない」「見ない方が良い」とされているものを見たいという気持ちは共通してもっているもののようです。日本では『鶴の恩返し』や『浦島太郎』などの物語にも見ることを禁止されたものを見るという人間の姿が描かれています。そしてこれらの物語では見てしまったことによって関係性が破綻したり直面したくない現実に直面したりしなければならなくなるなどの悲しい結末を迎えます。

現代でも見ることを禁じられているものを見てしまうことで人間関係の維持ができなくなったり幸せな生活が破綻したりすることがあります。人には人に見せない顔があり、大なり小なり秘密をもっていることがあっても不思議ではありません。限られた人にしか見せない顔があり、限られた相手だから言えることもあるのです。SNSのアカウントを複数もつ所以はこの辺りが関係しているのではないでしょうか。

見てしまった事実を抱える『重さ』

特に日本人は本音と建て前の使い分けをする文化の中で生きており、見せないという選択が必要なこともあります。見たいという気持ちが破滅に向かう可能性もあり、その不安を抱えられる力を身に着けることは非常に大事なことです。見てしまったらその後は見て知った事実を抱えながら生きていくことになります。だからこそすべてを知っているということが幸せではないのかもしれません。

引用文献 心理学辞典 中島義明 他

参考文献 見るなの禁止 北山修

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監修者

カウンセリングルームここまり医師

カウンセリングルームここまりの精神科医師と公認心理師・臨床心理士による記事記載と投稿。

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